インドのShiva

更新日:2021年11月17日

僕は1989年にインドに行った。その当時海外旅行は珍しく無くなていた。だが僕にとっては海外は2回目だった。


……旅は続いていた。インド・ボンベイの街に辿り着いてからは、あの威嚇するような大きな目玉とコールマン髭の油断ならぬ詐欺師たちに頭を悩ませていた。それでも高僧が棲むといわれる寺院を尋ねる気持ちは変わらなかった。3、4時間ぐらい列車に揺られていただろうか、辺りは薄鼠色の岩山の景色に変わっていた。とても遠くに迷いこんでしまった気がしはじめていた。


 やがてボンベイ駅で出逢ったインド人が教えてくれたバスに乗り換えるために下車する停車場に着いた。そこには頼りないホームだけがあった。屋根もない、入り口もない駅で風だけが吹き、辺りには建物らしいものはほとんどなく、牛がうずくまっていた。何かこの旅自体が間違いなのかもしれないという不安が僕を襲った。もう夕暮れは近い。しかし目的のバス停は一体どこにあるのだろう。そんな時、空を見上げようとした僕の視界に突然入ってきたのは、高さ2メートルくらいの土壁に腰をかけ笛を吹いている少年だった。僕の顔を見て首を振り「あっちだよ」と合図を送っているようだった。僕は声にならない声で「ありがとう」と言ったつもりで少年が標した向こう側に歩いていった。



 大きな石が置いてあった。そこで待っていると、どこからか涌きたち集まって来た人たちが僕を囲んでいた。そんな僕たちが磁石になったかのように、バスは早速やって来て全員を乗せて発車した。それでもバスに乗ったことが正しいのか全然分からず運に身を任せたまま、バスは小さな村々を通り過ぎていった。 


 見たこともない大きな楕円形の太陽と地平線とが接する辺りのゆらぎから、かろうじて照らす赤い色で道と岩山と柴が子供の頃をフラッシュバックさせた。いつしか僕は寝てしまったようだった。隣りのインド人が脇腹を恐い顔をしてつっついて降りろと合図をして起こされた。 


 夕闇の中、僕の後ろでバスは去っていった。目の前に現われたのは間口2メートルぐらいの鉄門。ここは寺なのだろうか?グリーンの軍服を着てライフルを持った兵士が二人、両脇に向かい合って立っていた。「ガネシュプリ、アシュラム?」とやっとの思いで僕が聞くと、護衛兵は無言で頭を突き出し、中に入れと言っている。硬直した僕の身体は迷っているというより、何か別の合図を待っていたのかもしれない。次の瞬間、誰かが背中を押した。その門をくぐり、後ろを振り返ると、二人の兵士はお互いを見つめ合ったままライフルを直立させ、そのまま永遠に立ち続けているかのようだった。

 

 思い直し?前方に進み左に曲がると、植え込みが両側にある小さな道があった。その一点透視のパースの正面には、ちょうど拝観料を取るような小屋があった。僕が息をのむように近づくと、その小さな窓から顔を出したのは、シワ一つない赤いシルクの衣に身を包んだ西洋人のお坊さんだった。まるであらかじめ僕がここに今、到達するのを知っていたかのように水が入ったコップを差し出した。 



 このさびれた、生き物の営みもままならないインドの山の中と近代的匂いがする西洋人のヒンズーのお坊さんという異質な組み合わせにとまどいながらも、奥へと案内されるまま進んだ。敷地は扇状に広くなって、やがて手入れの行き届いた色とりどりの花壇や芝生の公園や、たっぷりと水を湛えたプールや本屋が次々と僕の視界に入ってきた。その時初めて、やっと目的の寺院に辿り着けたことを僕は理解したのだった。目に見えない力でここまで導かれたのだった。途中で出会った少年たちはシバなのかもしれなかった。

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